相続した実家を貸すには 定期借家契約の手続きと修繕の分担をどう決めるか
相続した実家を貸すとき、あとで自分や家族が住み直す可能性があるなら、定期借家契約が選択肢になります。定期借家は、契約で決めた期間が終わると、更新されずに終わる賃貸借です。根拠は借地借家法38条です。
使うには3つの手順が要ります。書面で契約すること。契約の前に、更新がない旨を別の書面で説明すること。期間が1年以上なら、終わる1年前から6か月前までの間に終了を通知することです。修繕は、民法606条で貸主の義務とされています。ただし、国土交通省の指針は、貸主が修繕を負わず借主が自費で直す形も示しています。この記事は一般的な情報で、個別の判断は不動産会社や弁護士などの専門家にお願いします。内容は2026年11月4日に確認しました。
普通借家と定期借家の違い
家を貸す契約は、大きく普通借家契約と定期借家契約に分かれます。違いは、期間が終わったときに貸主が出てもらえるかどうかです。
国土交通省の資料によると、普通借家契約では、貸主は「正当事由」がなければ解約や更新の拒絶ができません。正当事由は、次の4つを考慮して判断されます。

- 貸主と借主が建物を必要とする事情
- 建物の賃貸借に関する従前の経過
- 建物の利用状況と現況
- 貸主が借主に財産上の給付をする旨の申出(立退き料など)
定期借家契約は、契約で定めた期間が満了すると、更新されずに確定的に終わります。双方が合意すれば、新しい契約を結ぶ再契約もできます。更新とは別の扱いです。
国土交通省の検討会の報告書(平成26年3月)は、個人住宅について次のように述べています。一度賃貸にしても、あとで貸主が自宅として住む可能性がある。あらかじめ契約期間を確定させたいときは、正当事由を問わずに期間が終わる定期借家契約が有用な場合がある。相続した実家は、まさにこの場面に当たりやすい建物です。
国土交通省の資料から、2つの契約の主な違いを表にしました。
表は左右に動かして読めます。
| 項目 | 定期借家契約 | 普通借家契約 |
|---|---|---|
| 契約の方法 | 公正証書などの書面に限る。別の書面による事前説明が必要 | 書面でも口頭でも成立する |
| 更新 | なし(再契約は可能) | 正当事由がなければ更新される |
| 期間1年未満の契約 | 有効 | 期間の定めのない賃貸借とみなされる |
| 賃料の増減に関する特約 | 特約に従う | 特約にかかわらず、増減を請求できる |
| 借主からの中途解約 | 居住用で200平方メートル未満なら、やむを得ない事情があるとき申し入れできる。それ以外は特約に従う | 特約があればその定めに従う |
国土交通省の報告書は、解除後の明渡しの手続きは、普通借家と定期借家で変わらないとも書いています。期間が終わった借主が出ないときは、定期借家でも話し合いや裁判の手順が必要になりうる、という意味です。
定期借家に必要な手続き
定期借家は、手順を一つでも欠くと、更新がない旨の定めが働かなくなります。借地借家法38条の内容を順に見ます。

- 書面で契約する。期間のある建物の賃貸借で、公正証書などの書面によって契約したときに限り、更新がない旨を定められます(1項)。契約を電磁的記録でした場合は、書面でしたものとみなされます(2項)。
- 契約の前に、書面を交付して説明する。「この賃貸借は更新がなく、期間の満了で終了する」旨を、その旨を記載した書面で借主になる人に説明します(3項)。借主が承諾すれば、書面に代えて電磁的方法で提供できます(4項)。
- 期間が1年以上なら、終了を通知する。期間の満了の1年前から6か月前までの間に、終了する旨を借主に通知します。通知しないと、終了を借主に主張できません(6項)。
2の説明をしなかったときは、更新がない旨の定めは無効です(5項)。国土交通省の資料も、契約書とは別に書面を交付して説明する必要があると書いています。契約書に更新なしと書いてあるだけでは足りません。
3の通知が遅れた場合にも決まりがあります。通知期間が過ぎたあとに通知をしたときは、その通知の日から6か月を過ぎれば、終了を借主に主張できます(6項ただし書)。通知が遅れると、明け渡してもらえる時期もそれだけ遅れます。
借主の側の決まりもあります。居住用で床面積が200平方メートル未満の建物では、転勤、療養、親族の介護などのやむを得ない事情で住み続けられなくなったとき、借主から解約を申し入れられます。申し入れの日から1か月で契約が終わります(7項)。この規定に反する特約で借主に不利なものは、無効です(8項)。貸主は、途中で借主が出ていく可能性を前提に収支を考えておきます。
賃料については、借賃の改定に関する特約があるとき、借賃の増減請求を定めた借地借家法32条は適用されません(9項)。賃料を据え置く特約や、決まった率で上げる特約が、そのまま効く形です。
宅地建物取引業者が仲介する場合は、別に宅地建物取引業法の重要事項説明があります。定期借家の事前説明は、これとは別の手続きです。再契約をするときも、新しい定期借家契約として、同じ手順を踏みます。
修繕は貸主の義務が原則 契約で分け方を決める
民法606条1項は、賃貸人は賃貸物の使用と収益に必要な修繕をする義務を負うと定めています。借主の責めに帰すべき事由で修繕が必要になったときは、貸主の義務ではありません。

借主が自分で修繕できる場合も、民法607条の2に決まりがあります。借主が修繕の必要を貸主に通知し、または貸主がそれを知ったのに、相当の期間内に貸主が直さないときです。急迫の事情があるときも、借主が修繕できます。
実家は築年数が長く、設備や内装の傷み具合が物件ごとに大きく違います。国土交通省の報告書は、貸主の中には自分では修繕せず、現状のまま貸す例があると書いています。借主が模様替えや設備の入れ替えをするときは、借主の負担で認める契約です。報告書は、こうした貸し方を大きく3つに分けています。ここでは、実家に関わりの深い2つを取り上げます。
貸主が直して近隣の相場で貸す形(Aタイプ)
貸主が自分の費用で、入居の前に清掃や必要な修繕、設備の更新をします。家賃は近隣の市場相場並みを想定します。入居中に必要になった修繕も、貸主の負担です。電球の交換のような小修繕は、特約で貸主の義務を免除する場合があります。
壁紙や床の張り替えなどの模様替えは、借主には原則として禁止します。退去時の原状回復は、通常の損耗と経年劣化を除いて、借主の義務になります。争いになったときは、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」などに基づいて判断される、と報告書に書かれています。
借主が自費で直す形(Cタイプ・借主負担DIY型)
貸主は原則として修繕の義務を負わない代わりに、賃料を低くします。借主が自費で修繕や模様替えをし、その箇所の退去時の原状回復は免除します。報告書は、賃料水準の高くない地方での空き家の活用を主に想定した形だと説明しています。
この形にも、貸主に残る責任があります。報告書は、躯体や雨漏りなど、住宅の根幹の部分は貸主の修繕義務だとしています。貸主は、建物の安全性の確保にも十分に留意する必要があるとされています。著しく老朽化して安全に不安がある住宅や、修繕に多額の費用がかかりそうな住宅は、解体して取り除くことが現実的な選択肢になる場合がある、とも書かれています。
契約の前には、入居中に起こりそうな修繕の箇所と費用の目安を、借主に説明しておきます。報告書は、設定する賃料と契約期間、予想される修繕費のバランスが取れているかに注意するよう求めています。
国土交通省は、この形の普及のために資料も出しています。「DIY型賃貸借に関する契約書式例」(平成28年4月作成、平成30年3月改定)、ガイドブック「DIY型賃貸借のすすめ」、「家主向けDIY型賃貸借実務の手引き」です。改修の内容や、明渡し時に元に戻すかどうかを、貸主と借主が合意書で確かめる方式です。
貸す前に決めておくこと
実家を貸す前に、決めておく項目を整理します。順番に埋めていくと、契約の形が見えてきます。

- 自分や家族が住み直す可能性。あるなら、その時期を契約期間に反映できるか考えます。
- 修繕の分け方。Aタイプで貸主が直すのか、Cタイプで借主に任せるのか。小修繕の扱いも決めます。
- 修繕費の見込みと賃料。直す費用を、賃料と期間で取り戻せるかを確かめます。
- 事前説明の書面と、終了の通知の段取り。誰がいつ行うか、日付を決めておきます。
- 管理を任せるか。報告書は、所有者から管理と契約代行を受ける不動産事業者の形と、事業者が借り上げて転貸する形を挙げています。後者はサブリースの記事で規制を整理しています。
報告書は、DIY型のような契約では、後の紛争を防ぐため、専門性のある不動産事業者や地方公共団体が助言や支援をすることが求められると書いています。契約書の作り方は、宅地建物取引業者や弁護士に相談しながら進めると、手順の抜けを防げます。
貸す以外に、売却や別の活用と比べる方法もあります。空き家のまま持ち続けた場合の管理の手間と、貸した場合の収支を並べると、判断しやすくなります。土地の条件から使い道を絞る方法は使い道の選び方の記事に、複数社のプランを並べる方法はプランの比べ方の記事にまとめました。
出典
- 借地借家法(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/403AC0000000090
- 民法(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 国土交通省「定期借家制度(定期建物賃貸借制度)をご存じですか」 https://www.mlit.go.jp/common/001170116.pdf
- 国土交通省「個人住宅の賃貸流通の促進に関する検討会」報告書(平成26年3月)。個人住宅の賃貸流通を促進するための指針(賃貸借ガイドライン)を含む https://www.mlit.go.jp/common/001032284.pdf
- 国土交通省「DIY型賃貸借に関する契約書式例とガイドブックについて」 https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000046.html
いずれも2026年11月4日に確認しました。