相続した土地は市町村に寄附できるか 寄附採納の基準と相続土地国庫帰属制度との違い
相続した土地を市町村に寄附できるかどうかは、市町村が受け入れるかどうかで決まります。全国共通の基準はなく、自治体ごとに要件が違います。公園や道路に使える土地や、境界が決まって権利関係がきれいな土地が対象になりやすい、というのが公開されている基準から読み取れる傾向です。
受け入れてもらえなかったときの選択肢が、法務省の相続土地国庫帰属制度です。こちらは要件を満たせば法務大臣が承認し、10年分の管理費に相当する負担金などを払って国に引き渡します。この記事は一般的な情報で、個別の判断は市町村の担当課や法務局、司法書士、税理士などの専門家にお願いします。内容は2026年11月4日に確認しました。
市町村への寄附は受け入れてもらう手続き
市町村への寄附は、土地を寄附したい人が申し込み、市町村が基準に合うかを調べて、受け入れるかどうかを回答する流れです。次の例では、窓口は財産管理や公園緑地を担当する課でした。窓口は自治体によって違います。

公式ページで基準を確かめられた4つの自治体を、表にまとめました。どれも一例で、お住まいの自治体の基準とは違うことがあります。
表は左右に動かして読めます。
| 自治体 | 受け入れの考え方 | 主な条件・受け入れにくい土地 | 手続きの流れ |
|---|---|---|---|
| 名古屋市(不動産の寄附) | 市の事業に利用できること。売却などの処分が容易と見込まれること。原則は更地で、建物付きは相談 | 受け入れにくい土地は、境界が未確定、抵当権などがある、維持管理が難しい、土壌汚染や不法投棄物がある、崖崩れのおそれがあるなど。市に経費の負担を求める寄附も受け入れにくい | 事前相談、寄附申込書の提出、活用の調査、回答(申込から1か月後が目安) |
| 横浜市(公園緑地の寄附) | 公園緑地として確保する土地を、案件ごとに判断 | 面積は概ね500平方メートル以上。公道に接するか管理用通路を確保できる。境界を確定できる。安全性が確保されている。占用物件が移転か除外されている。私権の設定がない | 事前調査の申込み、可否の通知、1年以内に寄附申込書、測量など、土地寄附契約 |
| 世田谷区(公園緑地等の寄附) | 公園緑地として適切に管理でき、みどりの基本計画に沿って活用できる土地 | 面積の基準はない。公道に接するか既存の公園に接する。境界が確定しているか確定の見込みがある。占用物件は原則として移転か除外されている。私権の設定がない | 事前調査の申込み、結果の通知、寄附申出書、土地寄附契約 |
| 笠間市(土地寄附受入ガイドライン) | 維持管理の経費が市の財政の著しい負担にならないこと。係争の原因にならないこと。土地利用の制限がないこと | 境界が確定して杭などで確認できる。全ての隣接地権利者の同意がある。抵当権などの登記がない。一筆または寄附面積が200平方メートル以上。幅員4メートル以上の道路に2メートル以上接する | 令和3年9月から運用 |
横浜市のページは、相続税を納める際に税金面で有利になる場合があるとも案内しています。世田谷区のページの最終更新は2014年6月1日です。古い情報の可能性があるので、実際に使うときは自治体に確認します。
笠間市は、令和3年9月の発表で、それまで土地の寄附は原則として道路や事業用地の目的以外は受け付けてこなかったと説明しています。人口減少と単身世帯の増加で、自己所有地を市に寄附したいという要望が増えると見込んで、基準を明確にしたという経緯です。市が使う目的のない土地は、受け入れが難しい自治体もあることがうかがえます。
相続土地国庫帰属制度との違い
法務省の相続土地国庫帰属制度は、相続や遺贈(相続人に対する遺贈に限る)で土地を取得した人が、一定の要件を満たすと土地を手放して国に引き渡せる制度です。令和5年4月27日に始まりました。共有地は共有者全員で申請します。

市町村への寄附との大きな違いは、審査の物差しが法令で決まっていることです。法務大臣(法務局)が要件を審査し、承認するかどうかを判断します。
却下される土地と不承認になる土地
次のどれかに当たる土地は、承認申請ができず、申請しても却下されます。
- 建物がある土地
- 担保権や、使用・収益を目的とする権利が設定されている土地
- 通路など、他人による使用が予定されている土地が含まれる土地
- 土壌汚染対策法上の特定有害物質に汚染されている土地
- 境界が明らかでない土地や、所有権の存否・範囲に争いがある土地
これらに当たらなくても、個別の判断で不承認になる場合があります。例として、勾配30度以上で高さ5メートル以上の崖があり管理に過分の費用がかかる土地、管理や処分を妨げる工作物や樹木などが地上にある土地、除去が必要な物が地下にある土地、隣接する土地の所有者との争いがなければ管理や処分ができない土地が挙げられています。
費用
承認を受けたあとに、10年分の土地管理費相当額の負担金を納めます。法務省の資料にある負担金の目安は、次のとおりです。
- 宅地は面積にかかわらず20万円。ただし、一部の市街地(市街化区域か用途地域のある地域)の宅地は面積に応じて算定します。例として100平方メートルで約55万円、200平方メートルで約80万円です。
- 田と畑は面積にかかわらず20万円。ただし、一部の市街地や農用地区域などの田畑は面積に応じて算定します。
- 森林は面積に応じて算定します。
- 雑種地や原野などは面積にかかわらず20万円です。
これとは別に、申請のときに審査手数料として、土地一筆につき1万4000円がかかります。隣り合う2筆以上の土地は、一つの土地とみなして負担金を計算するよう申し出ることもできます。
国庫に帰属した土地は、国が普通財産として管理し、処分します。主に農用地として使われている土地と、主に森林として使われている土地は、農林水産大臣が管理します。それ以外は財務大臣が管理します。
制度には、市町村とのつながりもあります。法務省の資料によると、承認申請があったときに、国や地方公共団体に対してその旨を情報提供し、土地の寄附を受ける機会や、地域での有効活用の機会を確保するとされています。
表は左右に動かして読めます。
| 項目 | 市町村への寄附 | 相続土地国庫帰属制度 |
|---|---|---|
| 窓口 | 市町村の担当課 | 法務局(法務大臣が審査) |
| 受け入れの基準 | 自治体ごとに違う | 法令で却下・不承認の要件が決まっている |
| 対象になる人 | 自治体の定めによる | 相続等で取得した人。共有は全員で申請 |
| 費用 | 確認したページには記載がなく、測量などの負担は自治体に確認 | 審査手数料1万4000円(一筆)と、承認後に負担金 |
| 建物がある土地 | 名古屋市は原則として更地で、建物付きは相談 | 建物がある土地は申請できない |
寄附の前に整えておくこと
寄附の申し込みに必要な書類は、自治体ごとに決まっています。名古屋市の例では、登記簿謄本(登記事項証明書)、公図、地積測量図、土地の写真、土地の評価証明書などです。境界が確定していることも、多くの基準で共通する条件です。

先に調べておくとよい項目を並べます。
- 登記上の名義が誰になっているか。相続の手続きが済んでいるか。
- 隣の土地との境界を、杭などで示せるか。測量図があるか。
- 土地に抵当権などの権利が付いていないか。
- 建物や古い塀、樹木、ごみなどが残っていないか。
- 道路に接しているか。接している幅はどれだけか。
登記事項証明書や公図などの取り方は、土地活用のプランを請求する前にそろえる資料で説明しています。山林の場合は、所有者の届出や市町村への委託の話が絡むので、山林の記事も参考になります。
相続税の扱い
国税庁のタックスアンサーNo.4141によると、相続や遺贈で取得した財産を国や地方公共団体に寄附した場合、その財産は相続税の対象になりません。要件は、相続税の申告書の提出期限までに寄附することです。申告書に、この特例を受ける旨を書き、寄附した財産の明細を示す第14表などを添付します。寄附を受けた側が発行する、受け入れた年月日や財産の明細、使用目的を書いた書類も必要です。
寄附の手続きには、事前調査や測量があります。申告期限までに終わらないと、この扱いを受けられない可能性があります。税務署や税理士に、早めに確かめます。
どちらも難しいときの考え方
市町村に断られ、国庫帰属の要件にも当てはまらない土地は、持ち続けるか、売るか、活用するかを選ぶことになります。建物が残る土地は、国庫帰属では申請そのものができません。建物を解体するかどうかが、最初の分かれ道です。

土地の条件を調べて使い道を絞る方法は、相続した土地の使い道の選び方にまとめています。国庫帰属を検討する場合は、法務局のウェブ相談や窓口で、申請前に要件を確かめられます。法務省は、令和6年10月15日からウェブ相談を始めたとお知らせしています。
なお、寄附と国庫帰属は、どちらも土地の所有権を手放す手続きです。手放した後は、土地を使えなくなります。将来の利用の可能性を、家族で話し合ってから決めるようにします。
出典
- 法務省「相続土地国庫帰属制度について」(令和8年10月20日更新) https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00454.html
- 法務省「相続土地国庫帰属制度の概要(詳細版)」 https://www.moj.go.jp/content/001376610.pdf
- 名古屋市「不動産の寄附(遺贈を含む)について」 https://www.city.nagoya.jp/shisei/zaisei/1003568/1051044/index.html
- 横浜市「公園緑地の寄附受納制度について」(2024年8月15日更新) https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/machizukuri-kankyo/midori-koen/koen/tsukuru/koenkifu.html
- 世田谷区「公園緑地等の寄附の受入制度」(2014年6月1日更新) https://www.city.setagaya.lg.jp/02074/4714.html
- 笠間市「土地寄附受入に関するガイドライン策定」(令和3年9月28日) https://www.city.kasama.lg.jp/data/doc/1632795522_doc_1_0.pdf
- 国税庁「No.4141 相続財産を公益法人などに寄附したとき」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4141.htm
いずれも2026年11月4日に確認しました。